アメマス

青々としていた夏が過ぎ、日の傾きとともに草木が華やかに色づく実りの秋がやってくる。やがて木の葉が川面を覆う秋から冬に向けて川の様相もガラリと変化していく。アメマスを追う度に目に映る季節の移ろいは何物にも代えがたい。

我が釣り人生の中で欠かせない好敵手のアメマス。この魚をめぐる巨大魚伝説は言うまでもない。聞いた話では1mを超すものも釣り上げられているとか、そんな可能性を追い求め川へ向かう。年間釣行回数の6割をアメマス釣りが占める。どこで釣れたのか、ルアーは何を使ったのかなど、釣りに関するデータの蓄積を重ねる中、たくさんのアメマスを釣り上げてはメジャーをあて、流れに戻す。少しずつではあるがサイズアップしていく。私のレコードは厳寒期である2月、凍てつく流れの中から釣り上げた74cm。かと言って特段、大きさにこだわりわなく小さな個体であっても十分、私を楽しませてくれる。時期により体色・斑点・表情に違いがあり、そのどれもがなまめかしく美しい。

寒さが厳しくなってきた11月、アメマス・イトウに会いたく、早朝から気合を入れて湿原の川へと向かう。一見、平然と記念の一枚を映したのだろうと見て取れるが、実はこのアメマスを釣るちょっと前に、気にいった釣り座へ移動しようとヤブを押しのけたつもりが逆にヤブに押され、私はこの川下に落ちている。確か一度服を脱ぎ震えながら水を絞った記憶が残っている。長い間釣りに明け暮れてきたのだ、川に落ちた笑える話はかなりあるのだが、それはまたにして、釣れてくれたこのアメマスは産卵を終えた下りの個体。ヒレにはきれいな白いラインが入り、口の中はお歯黒ともいうべきか深い紺色である。回復も早かったようでなかなかマッチョな魚体である。もしかしたら、落ちた私を見て川の中で笑っていたのかもしれない。落ちて冷たくてもそんな釣りが何より楽しいのである。

イトウ釣行にて話したが、70cmジャストのイトウを丁重に川へ戻した後、大場所であったため、再びミノーを投げ入れヒットしてくれた魚が右のカッコイイ65cmのアメマス。彼がイトウにビビって逃げてきたのかは魚に聞かなければ解らないのだが、ピタリと止まっていたアメマスの当たりがイトウリリース後に復活したのである。私はそんな経験を結構していますが、似たようなシーン(アメマスが急に釣れなくなる)に出くわしたらかなりの確率で近くにイトウがいます。ちなみに下の二枚の写真、明らかにイトウに飲み込まれかけたアメマスだと思っています。川へ遡上する前にオットセイに噛まれたと思われる方もいると思いますが、私はイトウだと…。なぜかと言うと、同じような場面でイトウを釣り上げた後、釣り上げたアメマスの背中が食いちぎられて無い個体(写真に残しておけば良かったと後悔している)を見ているのだから…。生きるためにアメマスを喰らうイトウ、イトウに飲み込まれそうになってもミノーをベイトだと思い喰らいつくアメマス、釣りを通じて彼ら魚たちの必死な生きざまが垣間見える。

2月の釣り、寒すぎてある意味で言えば拷問に近い。でも釣りがしたくて川に行くのである。この日も当然、メチャクチャ寒かった。朝早くに行っても次から次へと流れてくる氷に阻まれて釣りにならない。でも動いていないと体温が低下し、体が参ってしまう。これでもかと言わんばかりの重ね着なので動きはぎこちなく、まるでロボットのような自分。まともに釣りができるようになるのは午前10時半から午後2時半くらいまで。ルアーを巻き取る度にガイドは凍り付き、しまいには針にまで氷が付着する。それをかじかんだ手で氷を落とし、期待を込めてルアーをキャストする。魚も当然、寒いので川底べったりに張り付いている。底を意識した釣りのため、お気に入りのルアーたちも直ぐに根掛かり、「さようなら」となる始末。当たりも鈍くモソモソした感じ。こんな条件下で狙うアメマス釣りは難易度が高く、一匹釣れた時の喜びはひとしおなのだ。そんな時でもアングラーの期待に応えてくれるアメマスは凄い。感謝しています。

一度、完全結氷した川が雨で再び開いた時に釣った1月のアメマス。越冬最中で相当腹が減っているのだろうか、ルアーへの反応はすこぶる良く、執拗にミノープラグを追う。岸からのキャストではルアーを引けないため、安全を確認しながら氷の上に立ち、ダウンストリームキャストからジャークを混ぜてのスローリトリーブはスリル満点。掛かったら普通に氷上へずり上げる。元気のいいアメマスは氷の上が心地よいのか、まるでスケーティングしているかの様相。こんな釣りが出来るのも北国ならでは。この年は気候によりたまたま川が開いて釣りが出来たのですが、なかなか巡り合うことのできないシーンでもあります。もちろん水深や万が一のことを十分に考慮した上での釣りです。春へ向かう3月頃もこのような釣りができますが、外気温が高く氷が割れやすい時期でもあります。危ないので絶対に真似はしないでください。

その年の気候や地域にもよるが8月お盆明け頃より大雨の増水を期に大挙して川を遡上する。いざ産卵に向かうアメマス達である。私は海アメ釣りはしないのだが、下流域で遡上間もない個体に出くわした時は、50cmほどのアメマスでも、強い針を簡単に曲げるような、パワフルな個体が多かった。白い斑点をひるがえすこのアメマスは68cm、ミサイルがごとくである。お気に入りのミノーにガクンと押さえ込まれるような衝撃が走ると同時に、大物の重い走りが伝わってくる。イトウのような底を這う強い走りとは違い、流れの中をグイングインと抵抗する。この日はいつもの相棒が居なく、ランディングを一人でしなければならず、おまけに岸高でどこで獲るかとても辛い状況下で仕留めた一尾。翌週は同じ川で、ルアーを追う80cm近いアメマスとメーターイトウを目撃している。